日学・黒板アート甲子園®︎2020大会 黒板部門 結果発表

メイン大会 入賞作品

※学校名、グループ名、人数、作品画像、作品名、制作エピソード、講評の順で記載
※画像をクリック/タップすると作品を全画面表示できます

最優秀賞

好文学園女子高等学校/好文学園黒板アートAチーム/11人

作品名:懐かしい未来

ボッティチェリの「春」という作品をオマージュし、いつもの春の楽しく気持ちも踊るような日常を描きました。コロナ禍の影響で普段当たり前のようにできていたことができなくなってしまったことや、自分たちの失われた日常への気持ちを黒板に込め、楽しげな雰囲気を表現しました。

【評】

ボッティチェリの「春」をオマージュした作品で、高校生の楽しそうな様子がリアルに描かれ、これから新しい生活が始まっていくようなイメージを与えてくれる作品です。今年の春は新型コロナウイルスの影響で、こういう楽しい雰囲気はありませんでしたが、見る人を非常に前向きな気持ちにさせてくれるパワーがある作品だと思います。細かいところまでこだわりを持って描き込まれているのも魅力的で、全審査員とも最優秀賞に異論がありませんでした。

優秀賞

埼玉県立大宮光陵高等学校/とりずき/3人

作品名:Colored owl

高校生になり初めての黒板アートです。これから色んな事を経験して、無色から様々な色に染まっていきたいという想いを込めました。森の賢者と呼ばれる梟の大きく羽ばたく様子で、私達の大きく成長しようという気持ちを表現しました。

【評】

フクロウの鋭い目つきをはじめとした迫力と、黒板全体をめいっぱい使った表現、そして奥行き感の表現に惹かれました。色数を抑え、落ち着いた色で表現されていますが、黒板自体の黒の部分をうまく引き出して、陰影のつけ方も非常にきれいだなと感じました。翼にちりばめられた光の表現も、チョークを指で伸ばしてぼかしたり、きれいな表現になっているので、仕上がりとしても美しいな、と驚きました。

香川県立善通寺第一高等学校/うみんちゅ/5人

作品名:消し忘れ注意!!

ある日、学校の倉庫に眠っているいくつかの移動式黒板を見つけ「これ..黒板アートで使えるんじゃない?!」と思いついた事から、今回の取り組みは始まりました。 黒板アートの製作にあたり、「学生らしくエネルギッシュな作品にしよう!」とテーマを決め、野性的な印象の強いホオジロザメを描く事にしました。 今回のモチーフとなるサメについて色々調べていくにつれて、サメの強靭な肉体やあまり知られていない脅威の再生力についても知る事が出来、これは益々テーマに合致した題材であると感じました。 教室がある現実の世界と、ホオジロザメが存在する黒板の中の世界との境界を無くす為に、消し忘れられたサメが飛び出してくるというアイディアにする事にしました。 立体感を出す為に、黒板を屏風の様に配置してみたり、天井から吊るしてみたりと試行錯誤を繰り返した上で、最終的に飛び出してくるサメの迫力が出るように、黒板の数を増やし奥行きを出し、照明を使用して前後の黒板の明るさを調整する等の工夫を行いました。 今回の作品は何枚かの黒板を使用した奥行のある作品である事から、一つの視点から見て、絵が繋がるように描く必要がありました。その確認のために、三脚で固定しているカメラと黒板の間を何度も行き来し、配置や構図を確認しながら描いていくのはとても大変でした。 何度かくじけそうにもなりましたが、生物担当の先生から資料を貸して頂いたり、担当の先生から沢山の助言や励ましの言葉を頂けたりしたのが私達にとって大きな励みとなり製作を続ける事が出来ました。 完成したのは夏休みの最終日! 多くの先生が作品を鑑賞しに来てくれました。 校長先生の「すごい!!涼しくなりました!」という感想がとても嬉しかったのを覚えています。 見に来て頂いた先生が、複数の黒板の絵がピタッと合う位置を動きながら探しているのを見て、作品と鑑賞者がコミュニケーションをとっている様子は何だか体験型アートの様だなと感じました。 次の日から授業が始まるので、皆で製作した作品をたった一日で全て消さなくてはならず、黒板消しで消している時にとても悲しい気持ちになりました。 しかし、今回この5人で協力して最後まで投げ出さずに一つの作品を作り上げた経験は大人になってもきっとずっと忘れない価値のあるものになったと思います。

【評】

パパッと見ではわかりにくいかもしれませんが、たくさんの黒板を不規則に並べて、それが1点、ここぞという場所にカメラを据えて撮影することで初めて一つの作品として完成する、非常にアイデアあふれる作品です。着想の斬新さにおいて、今後の黒板アートの展開に新たな方向性を示した価値ある作品です。ぜひ斜めから撮影した制作過程の写真も併せてご覧いただきたい作品です。

福島県立会津学鳳高等学校/会津学鳳高校美術部/6人

作品名:掴め!!

屏風を押しのけ、何かを掴み取ろうとする猫。その手が求めるのは、夢か、希望か、猫じゃらしか…。いろいろ想像して楽しんでください。観てくれた人の元気が出て、目線を上に向けたくなるような作品を目指しました。明るい未来が掴めますように!

【評】

ほかの作品と並べたときに、やはりインパクトがある、強い作品だと思います。特に色彩がとても綺麗で、黒板用の数少ないチョークの色を駆使して屏風の金色を表現しているのは、すごく難しい技術だと思います。金色に見せるために恐らく、手前の猫を少しだけ暗い色で表現しているのも効果的だと思います。また、瞳だったり毛並みだったりと、猫の細部の描写力も素晴らしく、細部まで見応えがあります。そして、「掴め!!」という作品タイトルで、猫の手が求めるのは何か…と、鑑賞者に想像を委ねている点も、絵のイメージが広げられ、魅力ある作品だと思います。

エリア賞

エリアをクリックすると各エリア受賞作品にスクロールします。

北海道・東北ブロック
(北海道・青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県)

福島県立福島西高等学校/デザレンジャー!/5人

作品名:出会い

入学時に感じる新たな出会いの「興奮」や「ときめき」を表現するため、古代生物達との出会いをテーマにデザインを考えました。お互いの得意不得意をカバーしながら一つのゴールに向かって励み、切磋琢磨してこの作品を完成させました。制作を通して各自の実技的な技術の向上が見られたことはもちろん、お互いの意見を尊重して協調し合うことの大切さを再認識できました。

【評】

奥行きの表現が秀逸で、一つひとつの恐竜のうろこも緻密に描き込まれているのも非常にきれいだなと感じました。また、単に恐竜を描いただけでなく、作品の中に高校生が入り込んでいるのも面白いデザインだと思います。格好良さや力強さが伝わってくる作品です。

関東ブロック
(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)

埼玉県立大宮光陵高等学校/カエルlady/2人

作品名:Enjoy rainy day

ある梅雨の日。結露を手で拭くと窓の向こうにはカエルとアジサイ。よりリアルな描写を目指し、資料を集め観察しました。結露を一粒一粒描いていく作業が大変でしたが、2人で協力して制作しました。

【評】

雨の日の匂いや湿気を感じることができ、ぼかしの表現や、黒板の地色をうまく利用して、黒板の黒が黒板ではなく、本当に水滴を拭いた窓に見えるのが素晴らしいと思いました。制作者が2人という少ない人数ですが、黒板の隅々まで緊張感を持って描写しており、描くことへの熱意を感じられます。また、描写力だけでなく、左側の指で曇りガラスに描く表現からも遊び心が感じられ、鑑賞者を楽しませてくれる魅力的な作品です。

東海・北陸・甲信越ブロック
(新潟県・富山県・石川県・福井県・山梨県・長野県・岐阜県・静岡県・愛知県・三重県)

長野県立長野西高等学校/長野西美術班/8人

作品名:鵬程萬里

私たちは「人を勇気付ける黒板アート」をテーマに製作しました。試練を表した波は、長野県にゆかりある葛飾北斎の画風を取り入れました。
また、西の方角を守る神獣の白虎を私たち西高生の守り神として表現しました。8人それぞれのタッチで背中を押す作品になったと思います。
ぜひ細部にも注目してみてください。

【評】

非常に地元愛を感じさせ、地域色である特産物や昔からの伝統を黒板アートで表現されていると思いました。蛍光色を取り入れつつも「和」を感じられる素敵な作品だと思います。

近畿ブロック
(滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)

奈良県立磯城野高等学校/美術部/26人

作品名:悠久の彩り

校庭の藤には「決して離れない」という花言葉があり、厄除けの力があるらしい。その藤を咲かせる熊蜂は、本来飛べない体の構造から「奇跡」や「不可能を可能にする」象徴と記されている。コロナ禍、いつも以上にお世話になっている先生方へ感謝とエールを込めて。飛び交う熊蜂は部員の数、美術部一同、心身共に健康な学校の未来を願って。

【評】

校内にある藤をテーマに描かれた作品で、満開に咲く藤の姿がとても強く描かれており、花の香りを感じさせます。上部に藤の葉が縁取りのように描かれており、いいアクセントになっています。チョークの色が限られる中、様々な紫を工夫してつくり出し表現している優れた作品だと思います。また、小さく蜂が飛んでいるのもポイントで、細かいところまでこだわりを感じました。

四国・中国ブロック
(鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県・徳島県・香川県・愛媛県・高知県)

島根県立江津高等学校/江津高校美術部2018/5人

作品名:理科室in52(ごうつ)の海

江津高校から見える海を描きたいと思いました。テーマの海を表現するのに学校と結びつけたくて、海の中の学校をイメージしていたところ、ある部員の「魚の中に教室を」という意見に、部員みんなが賛同して構図が決まりました。作品を描く作業中には、ひとり一人のアイデアを取り入れて、時には指摘し合い、何度も描き直しました。途中、くじけそうになった時にも励まし合って諦めずに描けました。完成途中で離れて眺めたときに「自分たちもやればできるんだ」と感動したことを覚えています。その感動をもとに続けて頑張り切れました。特に苦労した点やアピールポイントは、魚の目と海の色です。魚の目はリアルな立体感と透明度を出すために少しずつ色を変えながら塗り重ねる工夫をしました。海の色は、塗る面積が広いため、同じ色に統一できなくて困りましたが、時間をかけて何度も塗り直し、思っていた海の色を出すことができました。何日かかけて完成した時に、教室のカーテンやエアコンが青くなっていることに気づいたほどです。私たち3年生の部活動の集大成として完成させた作品です。みんなで楽しみながら作れたことが一番の喜びです。

【評】

普段通っている高校から見える海をテーマに、海の中が学校で、魚の中が教室という設定が面白く、日常から自由に想像を膨らませているアイデアが魅力的です。また、3面の黒板を使用し、面積が広く大変だったと思いますが、制作エピソードからも、部員同士が一丸となって作品と向き合い、共同制作の過程を通して、様々なことを学び成長している様子が伺え、とても素晴らしいと思いました。

九州・沖縄ブロック
(福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県)

久留米大学附設高等学校/黒板に絵を描く人たち/4人

作品名:タウマゼイン

[1]黒板アートの特徴 
1 )形態
黒板の形状: 普通は絵の主題によって調節するが、黒板は固定されており黒板自体で調節は不可能である。黒板の形状は地面に垂直な横長の長方形であり、より多くの情報を一挙に提示できるように手の届く範囲で最大面積となる形で壁に配置される。見えづらい角度を減らすため湾曲しているものや二段で上下に移動可能にすることで面積を大きくするものもある。  色: 地の色である黒板自体の色の多くは緑系統である。
チョーク: 多様な色が存在する。技法の面では多くのことができるわけではないが、水溶させ、定着はしないものの疑似的に水彩絵の具のようにし、筆で描く技法をとりいれるひともいる。この技法を除けば混色をあらかじめするのは難しい。重ね塗りは層状に粉を置かなければならないが、厚みに限界があり向いていない。従って印象派のように点描で色を表現するのに向いていると考える。これらはチョークの本質的な目的が消すことにあり、定着と持続を拒むことに起因する。  作業体制: 黒板が自由に使える恵まれた環境であればひとりで思うように描くことも可能だが、学問という学校の第一義に必要なツールなので、制作時間に制約があることが多い。このことから多くの場合は仲間と連帯することが要求される。
2 )内容 
 黒板アートは上でも触れたが消すことが目的として作品に内包されており、その点で存在と消滅が同時にあるシュレティンガーの猫のようでもある。この矛盾をはらむことによって矛盾の解消へ指向するエネルギーが存在に魅力を感じる。  通常、作品というものは大まかに二種類に分類できる。一つはある思考や論理といった概念を物質に定着させ持続的に表現するものであり、これらには一般的な絵画や彫刻、小説といった多様な作品がふくまれる。二つ目として消滅が念頭にありその変化や独特な美を楽しむ作品が挙げられる。これに属するものとして、花火や猿楽などがある。前述の通り、定着を拒み、最終的には消滅を目的とするチョークを用いる黒板アートは、この分類では後者の属性を多く含むと考える。しかしながら、黒板アートを鑑賞する際には、前者に属する作品として、一般的な絵画と同じように鑑賞されることが多い。これでは、黒板の形状的側面にのみ着目しているだけで、時間経過による消滅という大きな特徴ー美しさを備えた特徴ーを無視していることになる。
 また、一般的な作品は持続を求めるが故に、背景となる時代の社会と切っても切れない関係にある。しかし、黒板アートは、繰り返し述べているように自己の目的として消滅があるので、古典として後世に残ることがありえず、風化のみが生じる作品であり、一切の社会的側面(利益の追求や価値の追求)を排するという点で明確な差異が存在する。この社会性に縛られていない点は、学生という生産活動をせずとも生活が半ば保証される立場を象徴しているように思う。この象徴性に学生が自覚的になって作品をつくることには一種の意味性が備わるのだと考える。 
[2]作品について
1 )主題 
 この作品は、画面中央の男が学問を象徴する本を登ってふと振り返ると広大な知識の原野に気づく情景を表現している。板書を見て勉強する自分たちが黒板の奥をのぞき込むと、黒板上で学ぶ知識の奥に未だ知らない知識が広がっていることをメタ的に表現している。自分たちは学問を追求することを比較的重要視する学校に通っており、 否が応でも学問に向き合わされる環境にあるなかで、学問とは何かということを考え、 学問を総体的にとらえることを目指しこの絵を描いた。また、黒板アートという媒体は時間の特徴である変化を象徴的に内包する。その点で高校の三年間という変化の著しい時間を学問へ捧げた自分たちの学問に対する考えを表現するのに適していると考えた。意図とは異なるが、本を人類の英知ととらえ、原野を人工の対である自然ととらえることで人類の進歩とその背後の未知という絵にもみることができる。これらの解釈はあくまでも個人の感想であり多様な感受をしてもらえたら幸いである。
2 )用いた技法、工夫した点
 主に点描で風景を描写し前景はベタ塗りすることで密度による遠近感をだした。他は覚えていません。
3 )感想
 描いている最中の空気や完成した時の達成感、消す際の不安や安堵が織り交ざった感情は得難い経験であった。また今回は上のような文章にも挑戦してみたが、これもまた良い経験であった。もう二度と黒板アートをする機会はないだろうが、満足し、終えることができた。
 まとめ
画面中央の男が学問を象徴する本を登っており、ふと振り返ると広大な知識の原野に気づく。
私たちはそうした学問の本質を、総体的にとらえることを目指してこの作品を描いた。
また、黒板・チョークのもつ特異性やアートとしての形態についても考察を重ね、その核心は時間経過による消滅であることを認識した上で制作した。

【評】

高校生活を通して、学問を追求しながら考えていることを表現している点が興味深いと思いました。「学問を象徴する「本」を登って高見をめざす中、振り返ると広大な知識の原野に気づく」という情景を描くために、難しい構図に挑戦していますが、描画方法を駆使して、遠近感を出すことができています。鮮やかな色彩からは、澄んだ空気が感じられます。また、高所から見下ろす構図により、鑑賞者にスリルな感覚を与え、未知の世界への探究心が豊かに表現されてます。

審査員特別賞

三澤先生選出 埼玉県立朝霞西高等学校/にねんいちくみ/11人

作品名:青空の下、キミの隣で。-in Asaka station-

3週間という短い期間でしたが、みんなで協力して計画的に進められました。特に、空の雲と青空のコントラストをはっきり表現したくて、何度も重ね塗りしました。全体的に細かいものが多かったので、大部分が完成しても細かい作業が多くて、特に信号機には苦労しましたが、無事完成することができました。

【評】

たぶん通学で使っている駅を描いたと思いますが、その駅をそのまま素直に描いている表現が、温度とか湿度とか匂いとか、あるいは人々の声とか、見る人に実際にそこにいるかのような錯覚を与えてくれます。構造物の直線中心の描写と、空の有機的な描写とが響き合いが、チョークの色数の少なさをカバーし、日常の空気感をつくり出している優れた作品です。

熊沢先生選出 千葉県立茂原高等学校/茂原高校美術部/12人

作品名:暁の虎

日の出を見つめる虎を描いたものです。色をつけた虎と白い虎は、「表と裏」を表しています。中心にはシルエットの鳥と朝日を描き自然の雄大さを意識しました。みんなで描き完成に向かうと、始めにイメージしていたものではありませんでしたが、それぞれの個性が1つの作品になって1人では描けない面白いものができました。

【評】

デザイナーが考えたような構図で、完成度が非常に高い作品だと思います。色を乗せるだけでなく、うまく色を抜いている表現が面白いですね。真ん中で描かれている自然の雄大さも、みんなで描きながら少しづつ決めていき最終的にこのデザインになったのかな、という過程が感じられるのも良い点です。

西村先生選出 好文学園女子高等学校/好文学園黒板アートBチーム/10人

作品名:刹那

黒板アートを初めて描く人を中心に制作しました。女の子がライオンのような強い存在に憧れつつも、上手くいかずに周りに流されてしまうという高校生特有の葛藤を表現しています。波や毛のリアルさを追求しました。

【評】

「強い存在にあこがれつつも、うまくいかず周りに流されてしまう」という十代の女子高生の等身大の葛藤が描かれていて、そういった内面のネガティブな面をさらけ出して表現しているというところが非常に面白い作品です。ネガティブな面をさらけ出せるというのはある意味では強さでもありますし、今後これを乗り越えていく皆さんの未来まで感じられ、応援したくなりました。

日学特別賞

聖ヨゼフ学園高等学校/らりんとせな/2人

作品名:暮れなずむ頃

制作は、どんなものが描きたいか、という話し合いから始まりました。お互いの好きなイラストや色を見ながら、どんなところを見ていただきたいのか、黒板でどのように表現するのか一生懸命考えました。意見が食い違っても2人の思いを兼ねる案を探し、完成に向けて努力した時間は尊いものだったと思います。完成して黒板アートの全体を見たとき目頭の熱くなるような思いでした。また、完成後は先生方やクラスメイトにも見ていただき、たくさんの感想をいただきました。
 私達2人は普段は美大受験生として1人アトリエで描いています。そんな私達が学校という公の場で、2人、制作中までいろんな人に見ていただきながら黒板に描く、というのは非常に新鮮な経験でした。1人では選ばないようなモチーフを選び、絵についてだけでなく時には関係ない話をして楽しんだり、笑ったり、様子を見にいらした先生とお話したり、アドバイスいただいたり、思うように進む日もあれば全くうまくいかない日もあったりと、思い返せば非常に有意義な時間でした。また、黒板という画材は鉛筆のようにしか使えないかと思いましたが、水に溶いて絵の具のように使えることがわかり、スパッタリングしたり、力強くチョークで描き込んだりと普段とは違う幅広い方法で表現できる事がわかりました。長い休みを使って黒板アート、として取り組まなければ得られなかったものをたくさん手にすることができました。

【評】

チョークを水に溶いて絵の具のようにして、筆で描く技法を多用してまるで油絵のような力強い、かつ幻想的な作品に仕上がっています。広角レンズを通したような水平線のゆがみが、空間の広がりを効果的に表現していて、構図も非常に素晴らしい。黒板アートの新しい可能性が伝わってくる作品です。

埼玉県立大宮光陵高等学校/いただきます。/4人

作品名:appetite

ただでさえ熱いものを描いているにも関わらず、エアコンが故障していてラーメンが嫌になりそうでした。しかし具材が増えていくにつれ、そんな事も忘れ食欲が増し、完成が楽しみになっていきました。

【評】

麺のシコシコ感やトロっとした半熟卵、脂ギッシュなスープ、わき立つ湯気の様子など、食欲を刺激するシズル感が群を抜いており、各審査員の注目度も非常に高かったです。奇をてらわないオーソドックスな技法だけで、とにかく美味しそうなラーメンを前面に押し出す構図と表現力を評価しました。

静岡県立富士宮東高等学校/深夜の206号室/6人

作品名:テストなんていや!!!

私達はテストなんか嫌いです。答案を返却された瞬間破りたいし、食いちぎりたいし、ぐしゃぐしゃにしてやりたいと思っています。そんな感情を黒板にぶつけている女子高校生を描きました。破天荒な3人の豊かな表情に是非注目してください!

【評】

過去にも黒板をぶち破って中から動物や恐竜などが飛び出てくる作品はいくつかありましたが、それが生徒たちであった作品はあまり記憶にありません。コロナ禍で鬱屈する反発や若さゆえの破壊衝動のようなものが、生徒さんたちの中に溜まっているのかもしれません。ただしそれを決して暴力的な形ではなく、高校生ならではのユーモラスな表情を、確かな表現力を駆使して描かれているのが好印象な作品です。

入賞

埼玉県立大宮光陵高等学校/シゲヲーズ/5人

作品名:「あっ、」

梅雨の合間に差し込む朝日 紫陽花にきらめく朝露の向こう
音もなく悠然と立ち上がる姿に、カエルは戦慄と憧れを抱く 瞬間、カマキリの投げた一瞥にカエルの時が止まる

【評】

すごく大人っぽい絵で、パッと見ですごく上手だという印象がある。鮮やかなグリーンと、黒板の背景とその濃淡の出し方、色遣いの綺麗さ、ぼかし方もとても美しい。ストーリー性と見ごたえ、背景とのバランスも秀逸です。

京都府立福知山高等学校/福知山高校美術部/13人

作品名:前に進め!

本校は5年前に、附属中が開校し、中高一貫校になりました。開校記念に「旅するムサビ」に来ていただき、附属中学校の1年生の教室の黒板に黒板アートを描いてもらいました。黒板アートの迫力に高校美術部員が魅了され、それ以来、部活動で黒板アートに取り組むようになりました。そして、毎年、3月の終業式前の土日に、附属中学校1年生の黒板にこっそり黒板アートを制作し、何も知らずに来た中学1年生を驚かし、想像力と創造力の大切さを伝える活動をしています。今年度はコロナの影響で、3月の終業式前に実施できず、休校が一時的に開けて、1日2時間だけ部活動ができた3月25日~4月5日に、制作しました。そして、4月の始業式の日に中学2年生になった彼らにプレゼントした作品です。
この作品は、「コロナなど事態にも想像力と創造力を駆使し、乗り越えていこう」というメッセージを込めて制作しました。担任の先生に中学1年の昨年度の取り組みについてインタビューをし、魚の稚魚を育てたり、魚の作品を作ったりしてきたことを聞きました。そこから、中学1年生が1年間で経験したことや学んだことを魚で象徴しました。魚をたくさん食べ、未来に向かって力強く進んでいく恐竜を描き、いろんな経験を糧にし成長した中学生を表現しました。そして、いつも彼らに自信を持てるよう応援している担任の先生も描きました。
始業式の日、高校美術部員全員で中学2年生の教室に入ると、大きな拍手がわきました。黒板アートに込められた思いを感じ取ってくれた中学生の拍手に、コロナで大変でしたが、諦めずに黒板アートを制作し、中学生にプレゼントできてよかったと思いました。。

【評】

古代の恐竜や現代の担任の先生、ロケットや魚など異質なものをつなげて一つの物語を作り、進化の「時間」を感じさせます。過去から現代に繋がるイメージは生徒の皆さんの学びの経験や成長なのでしょうか。ロケットになって未来の壁を打ち破っていくくエネルギーを感じます。恐竜の姿も頭部にフォーカスして黒板をはみ出すほど大きく描き出すことで迫力が伝わってきます。

アイデア賞

長崎県立島原高等学校/Bell tree/5人

作品名:夏の思い出

注射器や水風船など夏らしいものを使って描きました。

【評】

チョークを水に溶いて手形を押して描いており、その表現が花火らしさにピタリと合致して独特な作品の魅力をつくり出しています。また、手形の色や濃淡が黒板の色と響き合い画面に奥行きを生み出しています。今年の夏は花火を見る機会が特に少なかったのではないかと思いますが、その中で花火に込める特別な思いを表現に置き換えて、夏の思い出として気持ちを昇華させている素直な作品です。

ユーモア賞

埼玉県立大宮光陵高等学校/未知のうさぎ/4人

作品名:むげんのなつやすみ

この作品は女子高生になったばかりの私達が考えた女子高生の夏休みをイメージしたものです。女子高生が目を背けたくなる現実や理想、かわいいといえば兎など考えました。またサイケな部分を入れて現実離れしたものにしました。

【評】

女子高生ならではの「わたしは最強!」というような溌溂とした自己肯定感と、日常を楽しんでいる様子が伝わってきます。手には女子高生にかかせないアイテムを持ち、リアルな日常を表現しながら、無重力で色あざやかな雲の上にいるという、デジタル社会の「かわいい」文化で育つ、現在の高校生らしい感性が表現されていると思います。リアルとヴァーチャルで構されたユーモアのある作品です。

日本白墨工業賞

埼玉県立朝霞西高等学校/悶闍/9人

作品名:夜の花火~人影と共に~

最初は人の影を白のチョークでぬっていましたが、メンバーと話して、ぬらないで黒板の色で表すことにしました。制作時間は前もって決めていた時間より早く終わりました。全員で役割を決めて協力してできたので良かったです。

【評】

非常にシンプルでありながら、夏の夜の花火の華やかさをうまく表現していると思います。作品の制作当初は、手前の人影のところを白いチョークで描いていたとのことですが、その後、人影部分に黒板の地色をうまく利用したアイデアも非常に効果的で、それにより人影と花火の遠近観が出て、さらに花火の鮮やかさをより引き立てているところも良い点だと思います。

参加校一覧(五十音順)

愛知県立惟信高等学校/明石工業高等専門学校/英明高等学校/エクセラン高等学校/香川県立善通寺第一高等学校/石川県立金沢桜丘高校/川崎市立高津高等学校/京都府立福知山高等学校/沖縄県立具志川高等学校/熊本県立岱志高等学校/熊本県立大津高等学校/久留米大学附設高等学校/好文学園女子高等学校/埼玉県立朝霞西高等学校/埼玉県立大宮光陵高等学校/埼玉県立越谷東高等学校/桜丘高校/宮崎県立佐土原高等学校/静岡県立掛川工業高等学校/静岡県立富士宮東高等学校/島根県立江津高等学校/島根県立益田高等学校/学校法人尚志学園 尚志高等学校 福島キャンパス/市立札幌開成中等教育学校/聖ヨゼフ学園高等学校/千葉県立茂原高等学校/千葉県立上総高等学校/千葉県立匝瑳高等学校/千葉県立銚子商業高等学校/東京都立府中西高等学校/栃木県立壬生高等学校/富山県立高岡工芸高等学校/長崎県立島原高等学校/長野県長野工業高等学校/長野県長野西高等学校/奈良県立磯城野高等学校/奈良市立一条高等学校/沼津中央高等学校/福島県立会津学鳳高等学校/福島県立福島西高等学校/北海道帯広南商業高等学校/美濃加茂高校/宮城県古川黎明高等学校/宮崎県立佐土原高等学校/名城大学附属高等学校/陸上自衛隊高等工科学校